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桜が舞って、散る姿が眼に焼きつく。
瞼を閉じようとも、その光景だけは、けっして忘れる事はない。
忘れたくても、忘れられない。否! 忘れるわけにはいかない!
何物にも変えられない、自分だけの思い。
淡く、暖かく、そして少しだけ私を力強く押す、心の力。
「それが・・・・・・
恋!」
ヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラヒラ。
ちなみに今落ち舞っているのは普通に緑色に茂った葉っぱですが。
「気にしない!! 気にしてはいけないのです!」
・・・・・・ん? あ、すいませんなんだか訳が分からない状況で。
始めまして、私、蒼院藍香(そういんあいか)というものです。
ちなみにどう聞かれようともスリーサイズだけはお教えできません。あしからず、って誰も聞いてない、ですか? ・・・・・・そ、そうですか。
ええと、何から説明したらいいでしょうか。
とりあえず、今は七月の真ん中辺り、もう桜景色も遠い過去の思い出に飛び散ったころあいです。今は鬱陶しいにもほどがあると近々思い始めて、心を痛めているようなあるいは対抗心に燃えているような、そんな夏突入時のパスポート確認のごとく鳴き響き付けている蝉が合唱する地獄のような日です。蝉がきらいですか? と聞かれたら「いえ、嫌いと言うほどではありませんよ? 殺虫剤を撒き散らしたビニールケースの中で一生を過ごしてもらいたいですけどね」と答えられる自信があります。ありますとも。
・・・・・・って、そんな聞くだけ不必要な説明などしている暇はありません! 置いてけぼりであろうと、私には成し遂げなければならないミッションがあるのです!
「きょ、今日こそは――今日こそはっ!!」
なんか今、回りの空気がざわついて、意気揚々と歩いている人たちが一瞬で後ずさったような気がしましたが、まぁ気のせいでしょう。
あ、いい忘れてました。
ここは私達の愛すべき学び舎、「公立天井(あまい)高等学園」です。歴史とかなんとかはいろいろありますが、私は余り興味がないので知りません。知りたい人はご自分で図書室あたりにでも調べに行ってください。あ、でも、図書室に行く場合は聖水を用意してくださいね。いろいろと危険ですから。
ま、そういうのは、こう、置いといて、っと。
すぅーーーーー――――、
とにかく!!
「空也君に、今日という今日は、こ、こっこここっこここっこここ、こここここここここここここここここここっ!!!」
告白なんです!
ハイッ、回想シーン入りまーす。
~回想シーン・チェリブロッサムが目に沁みる~
あれは、とても昔のようで、最近の事でした(三ヶ月前のことですが)
「わぁ――」
並び立った木々からは、桜の花びらがカーテンの様に私の視界一杯に広がり続け、校舎が見えないほどにまで私の視力を奪っていました。
正直鬱陶しかったですが、それがあったからこそ、あの出会いがあったのでしょう。
憧れの学園に入学した私の心の中は、楽しさ二割、嬉しさ二割、不安二割、鬱陶しさ三割、空腹感一割、で構成されていました。
どんな神様が、私の運命を弄んだのでしょうか? 出会いは、その、唐突に、なのでした。
一歩踏み出した。
何故か道のど真ん中でバナナの皮。
えぇぇぇぇぇっ!?
普段から人一倍「藍香はドジッ娘確定だね、それはもう基本設定から裏設定までどうクラスチェンジしても変わらない最低値の運のように!」とか言われていた私は、自分がドジだというのが泣きたくなるほど認めきってしまっていたので、ああ入学早々これかよっ! ま、まぁ分かっていたけどね、別にコレぐらいで泣き喚いたりはしないけどねチクショー! とか思っていたのでした。
後はこのまま地面までカーブなしのストレートコースだったのですが……そのはずだったのですが。
ガシッと、力強く私の体を受け止めてくれた、大きな手があったのです。
振り返れば、そこには、ほら――
「大丈夫かい?」
絵本の世界のように、私の王子様は、絵本の王子みたいに、私の前に。
~回想しゅーりょー~
……っは! よだれは出してませんよ? 出してませんよ!? 出してないですから!!
と、まぁこんなすばらしい出会いに私は夢見る一人の乙女に成り下がったのです。普段はいろいろと厳しい委員長のようなキャラですが、私が居たいのは、そんなありふれたヒロインのような女の子で居たいのです。
いつかは空也君が私を迎えに来てくれる……なんて、そう簡単に思っていてはいけません。
空也君のような人は、大抵好いてくれている女の子に気づかないものなのです。ザ・グレート・オブ・鈍感なのです。そんな彼に気づいてもらうには、自分から一歩進まないといけないのです。
好き合いの特攻兵器、それが、告白。
真正面から告白なんてされたら、誰にも無視はできません。それが自然の摂理なのです、世界の意思なのです、というかこれまで無視されたらその人の人格を激しく疑うしかありません!
告白、恋物語の始まりor結末。
でも、それで終わりなんてさせません、私は、私は――
「空也君のお嫁さんにまで、上り詰めて見せますっ!!」
腕、高らかに空へと突き刺し、完璧な勝利宣言。
決まりました……。
「と、そろそろ時間かしら」
携帯の時刻を見れば、そろそろ朝のベルが鳴る頃合です。なんだかんだ言っても、空也君はいっつもギリギリな男の子。遅刻の回数も日々増すばかりです。
ですが、私が恋人になった暁には、きちんとした男の子に更正してみせます。
「うふ、うふふ、うふふふふふふふふふふじゅる、あらやだまた涎が」
ふきふき、よし。
顔よし、服装よし、髪型よし、寝癖なしで私の唯一の個性の苺のヘアピンも似合ってます、バッチシ、オケー。
完璧っ。
さぁ来るなら来なさい、というか来て下さい、お願いします空也君!
と――
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ
あ、ほら見えてきましたよ! なんかスッゴイ土煙が! あれはもう空也君たちでしかありませんね! 街中で土煙が見えるっていうのもなんか変な話ですが、彼なありうるからいいです。
よし、がんばれ蒼院藍香、あなたはやればできる子なのよ、そうなのよ。
今日こそ、決着を――!
「く、く、くく、空也君――――」
「っっっっしゃーーーー! いっち番乗りぃぃぃーーーーーー!! くーちゃん、カエっち、おっ先~~」
「ち、ちょぉっ、速すぎだろ、それ! 間違いなくおかしいって、連邦の瑞理キャノンは化け物か!?」
「さすがにくぅには負けるわけにはいかないわ、というわけで、でいやっ!」
「ぐばぁ! お、俺を踏み台にした!?」
「くるくるーっと、はい着地ー! 点数はどうかしら?」
「十点、十点、十点、十点、十点、十点、十点、十点、十点、十点、十点!! 計二点!! おしい、ザンネンでしたー、また来週~」
「な、何よそれ!? ちゃんと採点してよね、瑞理っ!」
「ちなみ、今の百点じゃないからな、十点一個多かったし」
「ぜーはーぜーはー、てか尚人、なんでお前いつのまにか俺より先に立っているんだ? さっきまで見当たらなかったが」
「はい、最下位はくぅ! アンタよっ、今日のお昼おごり決定ねっ!」
「ま、マジか! そのルールマジで採用だったのか!? お前突然走り出してから言っただろ! しかも荷物俺が持ってるし! ついでにちゃっかり瑞理! テメーのも持たされてるし!!」
「勝負はさ、非常なんだよ……誰かの犠牲なくして生きられない世界って、ホント、哀しいね……」
「すっげぇマジな顔で言ってんじゃねぇ!! はいそこっ、目薬ちら見せない!」
「まっ、負け犬がなんと言おうと、所詮はきゃんきゃん喚いているだけよねぇ」
「っっっせぇぇぇっのぉぉぉぉっ――」
「にゅわぁぁぁっ!? アタシの鞄投げようとしてんじゃないわよっ! ちょ、や、やめぇぇ!!」
「……ああ、どうでもいいが、もう鳴ってるぞ」
「やべっ、もうどうでもいいからさっさと走るぞ!」
「やりぃ、これで今日のレディースェンドジェントゥルメンパンは貰ったわね!」
「なんだそりゃぁっ!? つーか、瑞理、俺にあの購買部(ヘルグラウンド)に突入させるつもりか!?」
「ミッション失敗者にはおもーーーい罰が下されるのよねぇ、具体的にはピーーーーーーーー(自主規制)とか」
「や、やめて! お願いだからそれはやめてくれぇっ!!」
「アタシ、スペシャルアトミックパンで」
「俺メロンパン」
「ちっっっっくしょょょょょょょうっ――――!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ
リーンゴーンカーンゴーン。
………………………………、っふ。
「っふふふふふ、ふふふふふふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふ」
あ
「っれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
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久しぶりの、第三話です。
とにかくもう久しぶりなのです。はい、いろいろと詰まっていました。
ランダムに更新の可能性大なので、彼らの活躍も生暖かい目で見ていてください。
正直書いていて、コイツ大丈夫か、とかいろいろな方向から心配が浮かびます。